権利と聞いて何をイメージしますか?

ユニオンぼちぼち リバティ分会(大阪人権博物館学芸課・教育普及課分会)
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権利と聞いて何をイメージしますか?
 来館者にこの質問をすると、その答えからはいくつかの傾向がみえてきます。
 大人では、「人が生まれながらにもつ権利」や「人が人として生きる大切なもの」など権利そのものの特徴をあらわしたような答えや、「選挙権、生存権、肖像権、財産権」などといった個別の権利について書いてくれる人が多い感じです。
 またどうしてか、一定数の人が「義務」と書くのも大人によくみられる傾向となっています。
 では、子どもはどうか。「みんなが持っている権利」「人がその人らしく生きられる権利」などは大人と同じですが、「いじめ」や「差別」と書く子どもたちが少なからずいるのが大きな特徴です。
 
 次に、今まで受けてきた人権教育、人権啓発の内容について質問します。
 被差別部落、在日コリアン、アイヌ民族、障害者、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント、ジェンダー、人種差別など、その特徴は個別の差別問題があげられることです。
 これを受けて、①権利について書いた答えが、抽象的、具体的どちらだったか、②同じく、自分の生活に身近なものと感じるか、そうではないか、③受けてきた人権教育・人権啓発に「働く権利」と書いた人はいるか、とさらに質問を繰り返していきます。
 権利に対して抱いているイメージが抽象的か具体的かについては、そのおよそ7割が抽象的だったと答えてくれます。身近かどうかについても、6~7割程度が「身近ではない」に手を挙げます。
 受けてきた人権教育・人権啓発を数多く書いてくれる人も中にはいるのですが、「働く権利」と書く人はほとんどいません。子どもでは皆無です。
 この質問を考えたときに想像していた通りの結果にはなっているのですが、これが現状です。日本社会で権利がどのように受けとめられているかがよく分かりますし、状況はかなり深刻ではないかと感じています。
 人権のイメージが抽象的で自分に身近なものとは感じていないのですから、これではなかなか自分が人権をもっていると実感することはできません。まさに人権は、特別な場で特別な時間に学ぶものになってしまっています。
 最後に、「人権は誰のものですか?」と聞くと、多くの人は「全ての人のもの」と答えます。なのに、人権について繰り返し聞いたこれらの質問を考えるとき、自分に関わる質問だと感じながら考える人は多くないようです。「みんなのもの」なのに、そこに自分はいないのでしょうか。
 なぜこのような現状になっているのか。その問題を考えるとき、従来おこなわれてきた人権教育や啓発の問題を考えざるを得ません。
 質問に対する答えにも書いたように、人権教育や啓発でおこなわれている大半は、個別の差別問題に対する学習になっています。リバティに来館する団体が学芸員の解説で希望するテーマも、やはり多くは部落問題や在日コリアン、障害者の問題などになっています。
 もちろんこれらの問題も、被差別者の立場以外の人にこそ、自分自身が問われている問題だと考えて欲しいと思っています。しかし、リバティに来る子どもたちを見ていると、人権学習は固くて、重くて、面白くない、自分とは関係ないものだと感じていることがよく分かります。
 人権のイメージを聞かれて、「差別」と書くのも、人権学習は差別を受けて困っている人の話だと思っていることが影響しているのかもしれません。
 このような意識を変えていくためにこそ、労働に関する問題と働く権利の話を伝えていくことが必要だと思っています。
 若者が使い捨てにされるような労働環境が広がっており、非正規雇用の増加や正社員との収入格差、残業代の未払いや長時間労働の強制、違法な解雇の横行など、問題は深刻化する一方です。
 これらの問題が若者に広がっているのですから、高校生や中学生にとっても他人事ではありません。何人かの生徒は顔を上げて、話を聞いてくれるようになります。
 労働に関する厳しい状況を伝えていきますが、大事なのは、それが権利の侵害であると気づくこと、その前提として、働く権利の内容を知っておくことが必要です。そうでなければ、権利の侵害であると気づくことすらできなくなってしまいます。
 残業や深夜労働の割増賃金のことや有給休暇、解雇予告手当など、生徒たちには初耳の情報ですが、中には熱心にメモを取りながら聞いてくれる人もいます。「僕らはそういう権利を持っている!!」と力強く書いてくれた生徒もいました。
 これらの労働条件に関する基準は労働基準法に書かれていることも、合わせて解説しています。抽象的にイメージされがちな人権ですが、賃金など生活していくためにとても大切な基準が法律に書かれており、労働者が具体的に権利をもっていることを意識してほしいからです。
 厳しい労働環境、労働者がもっている権利とともに、もう一つ伝えているのが権利を守るために活動している人の実例です。
 紹介しているのは、メイド喫茶でアルバイトとして働いていた女性が、メールひとつで「今月いっぱいの契約とする」と解雇されたことに対し、裁判を起こして、解雇予告手当に相当する額を支払うという条件で和解したことを伝える新聞記事です。
 提訴した女性は、インターネットをもとに訴状を一人で書き上げたそうです。大人向けの研修でこの記事を紹介したとき、ある参加者が「すげぇ」という感想を思わずもらしていました。
 人権侵害に声をあげても、確かに放置されるままになってしまうことも少なくありません。また、一人ひとりが社会に関わり、社会を変えていく当事者であるという実感が弱いとき、このような状況はますます悪化していきそうです。声をあげていくのは、確かに難しいです。
 であるからこそ、権利侵害に異議を唱え、自分がもつ権利の一つをしっかりと守る
ことができた実際の取り組みを伝えたいんです。権利が自分を守り、社会を変えていくための武器となっていることを実感してもらいたいという思いで話をしています。
「子どもに夢や希望を与える展示になっていない」と大阪市長から言われたリバティの展示ですが、学芸員である私たちなりに希望を伝えているつもりです。それは、組合を立ち上げた私たちだからこそ、何よりも大事にしたいと思っている「希望」です。

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