「Visaプリペイドカード」配布への公開質問状

【ご注目下さい!】
反貧困ネットワーク大阪が、大阪市の生活保護費プリペイドカード支給事業について、三井住友カード株式会社に対し公開質問状を提出しました。
回答期限は4月14日(火)です。


2015年3月24日
三井住友カード株式会社
代表取締役社長 島田 秀夫 様
反貧困ネットワーク大阪
代表 生田 武志
生活保護受給者に対する
「Visaプリペイドカード」配布への公開質問状
 大阪市は、2014年12月26日、全国で初めてプリペイドカードによる生活保護費の支給をモデル事業として2015年4月から実施すると発表しました。貴社はこれまで大阪市に対して「受給者の利便性確保」と「生活扶助費の透明化(利用実態把握)」があわせて実現可能だとしてVisaプリペイドカードの活用を提案しており、大阪市と協定を締結してモデル事業を推進しています。また、貴社は本モデル事業を通して全国の自治体への展開を行うこと・公的分野への本格的な参入も明らかにしています。
 しかし本ネットワークは、本モデル事業が「貧困ビジネス」になりはしないかと危惧いたします。「貧困ビジネス」とは、生活保護受給者の囲い込み・支援費徴収や消費者金融・ヤミ金融など、貧困層をターゲットにした反社会的な営利行為のことです。なかには暴力団など反社会的勢力が関わるものもあると言われ、近年、日本社会に貧困が広がるなか社会問題となりました。
 日本弁護士連合会が「生活保護費をプリペイドカードで支給するモデル事業の中止を求める会長声明」において本モデル事業の違法性を指摘するなど、本モデル事業が生活保護受給者の人権を侵害し、貧困の固定化につながる「貧困ビジネス」になりかねないという社会的な関心は高まっております。
 また、当然ながら生活保護費は公費によって運営されており、公共事業に携わることの透明性の確保として、必要な情報を公開することは貴社の持つ自明の責任であると考えています。
 つきましては、貴社の経営理念・コンプライアンスを信頼し、下記に「生活保護受給者を利用したVisaプリペイドカード」配布に関してお尋ねいたします。

①プリペイドカード支給によって、生活保護受給者が得られる利点を具体的に教えてください。
②モデル事業後の生活保護分野に対する事業受託の計画内容・公的分野への参入について具体的に教えて下さい。
③全国自治体の生活保護分野へのプリペイドカードの導入によって貴社が得ることのできる預託金・決済手数料・入金手数料等の試算総額を具体的に教えてください。
④いわゆる「生活保護バッシング」で明らかとなったように、生活保護を利用するのは負の烙印だというような誤解・偏見が社会的に根強くあり、受給すべき人々が受給を避けてしまう大きなハードルとなっています。プリペイドカードを使わざるえないことで、生活保護の利用が妨げられてしまうのではないかと危惧しています。貴社はこの点をどのように認識されていますか。
⑤貴社は「スーパー、コンビニだけでなく、オンラインショッピングを含め幅広くVisaの加盟店で利用できる」と利便性を謳っていますが、受給者が利用する安売りスーパーや地域社会にある商店・食堂といった小規模店舗などでは利用できないといった問題があると私たちは考えています。また、アレルギーや疾病のために特定の店舗で生活必需品を購入する生活保護受給者にとっては死活問題です。貴社はこの点についてどのように考えていますか。
⑥プリペイドカード支給による「支出管理」を通して、「自立支援」を行うことについて、具体的にはどのようなことを想定されているのでしょうか。また、自立支援に関する福祉専門家や依存症専門の精神保健福祉士、生活保護受給者支援団体と連携した事前の検証は行われているのでしょうか。
⑦日本弁護士連合会「生活保護費をプリペイドカードで支給するモデル事業の中止を求める会長声明」及び大阪弁護士会「生活保護費をプリペイドカード支給する大阪市モデル事業の撤回を求める会長声明」にて、「生活保護法第31条第1項に反することは明らか」との指摘がありますが、経営理念の中で「社会的公正」を掲げる貴社ではこの声明全文及び法律違反の指摘についてどのように受け止めているのでしょうか。
⑧生活保護受給者とケースワーカーの取り決め・ニーズに応じて既存のデビットカードを使うことで利便性の確保は担保されると考えていますが、事業として推進する必要性があるのでしょうか。
⑨大規模災害時や貴社側のシステム不具合等のリスクから支給及び利用そのものができない状況が懸念されます。このようなリスクに対して対策は取られているのでしょうか。
⑩個人の生活全てを把握できる膨大な個人情報が貴社の管理に置かれることとなりますが、このデータの管理についてどのような利用目的を考えられているのでしょうか。また、漏洩といったリスクはないのでしょうか。
【以下、提出理由】
 「どうして、生活保護の生活扶助費支給にプリペイドカード導入を目指すのだろうか」と疑問が尽きません。公開質問状提出に至った理由についてこちらで述べさせていただきます。
①生活保護利用者の利便性確保について
 生活保護利用者の利便性につながることが貴社が表明した「国内初!公的給付にVisaプリペイドカードを活用するソリューションの提供開始」より謳われており、家計の把握や管理が行いやすいと提起されています。しかし、現金は一般的にどこでも使える点と比較してプリペイドカードは加盟店のみでしか使えず、選択肢が狭まれることは明らかです。モデル事業後に効果検証を行い、全国地方自治体に対して提案・本格化を追求されるとのことですが、プリペイドカードとは現金が使えることの選択肢がある上で利便性が担保されるのではないでしょうか。現行に於いても受給者それぞれがデビットカード等を用いることでVisaカードの利点を生かした家計の把握などは行うことができるものと考えています。また、金銭管理に不安なひと・困っているひと向けに生活支援員や相談員が個別具体的に関わる日常生活自立支援事業があります。
②生活保護利用者に対する金銭管理について
 同じく貴社の表明した「国内初!公的給付にVisaプリペイドカードを活用するソリューションの提供開始」に海外や米国で「幅広く活用されている」との表現があります。同時に今回のプリペイドカード問題では生活保護受給者の金銭管理が大阪市で謳われています。一例として、米国の公的給付の一制度であるSNAP(補助的栄養支援プログラム)の事例を引用しますと、米国農務省の報告書(2013年)によれば約8.58億ドル(約1032億円)が本来の利用目的から外れているとの記述があります。プリペイドカードで配布され、食品の購入のみに限られている同プログラムでは、一部のプログラム利用者が食品以外のものを買うために反社会勢力等を経由してプログラム利用者にとって悪いレートで換金され、食品以外のものを購入するに当てられているとのことです。
 この点からも生活保護利用者の金銭管理につながるのか、また「機械的な金銭管理で依存症の改善につながるのか」「依存症を持つひとが機械的に金銭管理を受けることで、よりしんどい状況に至るのではないか」という疑問が拭えません。尚、当方は生活保護利用者の尊厳・自己決定権を守るといった観点から、生活保護利用者を一律に、将来的に強制的な金銭管理下へ置くことに反対だということを明確に表明します。
③個人情報流失・不正利用被害の危険性について
 クレジットカード先進国の米国でも個人情報流出が起きていますし、また日本でも個人情報の流失が相次いでおります。また、モデル事業終了後にプリペイドカード事業が生活保護分野に全国的・本格的に参入するとなると、個々人の選択ではなく生活保護を利用するのに不可避な形で一民間企業に個人情報が渡ることとなります。民間企業に個人情報が委ねられることに疑問です。加えて、一般のVisaカード同様に「カード情報が何らかの形で盗まれ、悪用される」といった不正利用の被害対象となるリスクにさらされることとなります。
 また、公開質問状にある通り④大規模災害時やカードシステム委託先のシステムダウンといった非常時での電子マネーの効力⑤生活保護受給者を利用するような形で三井住友カード株式会社を始め関連企業が営利を得続けるのではないか、といった疑問を持っております。今月5日には生活保護問題対策全国会議他160団体が大阪市に対して「プリペイドカードによる生活保護費支給のモデル事業撤回を求める要望書」を提出しております。この事実を認識頂きたいのと、貴社にはこちらの要望書をご一読頂きたいと存じます。
 本件について、日本弁護士連合会から「生活保護費をプリペイドカードで支給するモデル事業に対して中止を求める会長声明」が出され、大阪弁護士会から「生活保護費をプリペイドカード支給する大阪市モデル事業の撤回を求める会長声明」が出されています。法曹界から生活保護法第31条1項に反するとの指摘、プリペイドカード支給のモデル事業の中止・撤回を求める声明が上がっていることの事実をここで改めて提起させて頂きます。
 生活保護は日本社会における最後のセーフティネットであり、他の手段では人間的な生活・健康で文化的な最低限度の生活を営むことができないがゆえに利用する制度です。生活保護を利用して始めに、具体的な支援をするひととつながれるのがケースワーカーの存在です。「いまの生活の課題」や「これからどうしようか」「この機関や制度を使ってみよう」と一緒に考えてくれる存在が都市部では平均100世帯以上も担当せざるえず、中には480世帯も担当している事例もあることが報告されています。カード化推進以前の状況ではないでしょうか。
 また、生活保護は不幸にして誤解・バッシングの多い制度でもあります。こうしたなかで「管理」が謳われるカード化が推進されることによって、ブラック企業で働き続けたことによって心身を壊した方やDVの状況から逃れた配偶者や子、様々な環境・背景によってしんどい状況にも関わらず、誰からの支援を得ることのできないようなひとが生活保護の利用を避けてしまうかもしれない。大阪市では2013年5月に「最後におなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね」と書き残し餓死した母子の遺体が発見されています。営利を追求する挑戦は否定しませんが、営利を追求しようとする対象が弱い立場にあるひとの人生を左右する分野だということをご認識頂きたいです。 
 以上のことから事業主体である三井住友カード株式会社に対して公開質問状を作成いたしました。一大企業が、人間の生を左右する公共事業に本格的に携わろうとしている。このことに対して真摯に向き合ってほしいという率直な願いを込めて公開質問状をお渡しした次第です。
三井住友カード株式会社で働くひとに敬意を込めて。
以上

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