英 Independent紙 2002年6月14日

アラブ諸国のボイコット運動

ロバート・フィスク

ベイルート発。現在、5つのアラブ国で、綿密に計画されたアメリカ製品のボイコット・キャンペーンが新たに展開されようとしている。その最大の標的はスターバックス・コーヒーだが、ネスレ、コカコーラ、ジョンソン&ジョンソン、そしてバーガーキングなどもそのリストに名を連ねている。今日、活動家たちがベイルートにある4つのスターバックスの店先で、スターバックスCEOのハワード・シュルツの親イスラエル的な考え方を詳しく記述し、同氏が「活動的なシオニスト」であることを訴えたチラシを配ることになっている。

1998年、シュルツ氏はエルサレムのアイシュ・ハ・トラー財団から「イスラエル50周年記念賞」を授与されているが、この財団はヤセル・アラファトに対して極めて批判的で、パレスチナ占領地を「領有権に論争の余地のある」領地と表現すべきだと主張している。

今年に入って − おりしもアリエル・シャロン イスラエル首相によるヨルダン川西岸の複数の町の再占領が最高潮に達していた頃 − シアトルで開かれたユダヤ系アメリカ人に向けた講演の中で、シュルツ氏はパレスチナ側の「行動の欠如」を非難し、「パレスチナ人はするべきことをしていない。彼らはテロをやめさせていない」と語っている。一方、イスラエル外務省スポークスマンのギディオン・メイルは「中東危機に関するイスラエルの主張」を学生に聞かせるうえで貢献したとして、シュルツ氏に賛辞を送っている。

スターバックスは、サウジアラビア、クウェート、バーレーン、オマーン、カタール、そしてアラブ首長国連邦など、レバノンの他に6つのアラブ諸国に展開しているが、エジプトのエインシャムス大学、およびカイロ・アメリカ大学のパレスチナ人やイスラム教グループなどで構成されるボイコット・グループの標的には、中東でばかりでなく、アメリカ国内でもイスラエルを支持する企業がこの他にも数社含まれている。

それはAOLタイム・ワーナー、ディズニー、エステー・ローダ、ノキア、レブロン、マークス & スペンサー、セルフリッジズ、そしてIBMなどで、ドバイ大学とシリアの首都ダマスカスの学生が現在ボイコット計画について連携を図っている。

レバノン人活動家のアミラ・ソールは「はじめ、レバノン国内で4つのボイコット・グループの行動を合わせるだけでも大変でした。アメリカの商品を標的にすべきなのか、イスラエルと直接的な取引を持つ企業を標的にするべきなのかが決まらなかったのです。ボイコット運動がようやく本格的に動き出したのは、イスラエル軍がラマラのアラファトの本部を包囲したときからです。レバノンはすべてのイスラエル製品をボイコットしていることから、『イスラエルを直接支援している企業はどうなるのか』という疑問が出てきたのです」。

「大半のアラブ諸国は、イスラエルと密接な関係を持つ企業でも容認してしまう資本主義の世界に落ち込んでしまいました。私たちは経済戦争を仕掛けているのです」と語っている。

2年以上前、バーガーキングは占領地のユダヤ人不法入植地に新店舗を開店し、アラブ諸国の怒りを買っている。はじめ、バーガーキングは店の閉鎖を決定したが、アメリカでイスラエル支持ロビイストの圧力がかかり、別のフランチャイズで再び開店することになったようである。

ネスレはイスラエル企業のオセム社の支配株式を取得し、ネスカフェ、ペリエ、カーネーション、スマーティーズ、キットカットなどのネスレ製品がイスラエルで販売できるようになった。イスラエル人ジャーナリストによれば、これによって「オセムは世界規模の流通網と宣伝広告インフラ」が得られたということである。株主への最近の報告によれば、オセム-ネスレは4ヶ月間に750万ドルの利益を出したそうである。

レバノンでは、国内で工場を操業するコカコーラが、イスラエルではコカコーラの製造は行っておらず、イスラエルで販売しているのはファンタやスプライトなどの輸入品だけだということをアピールし、批判をかわそうとした。また、ベイルートの南に位置するジェジーンという町で突然ヒマラヤスギ − レバノンの国樹 − の植樹プログラムを展開したが、大半の人は、これを反対者のムードを和らげようとするものと捕らえている。

世界各国に4,709店舗を展開するスターバックスでは、同社に抗議の手紙を寄せた人たちに、「CEOのはワード・シュルツは、テロ(原文のまま)がパレスチナの人々を象徴するものではないと信じている」と回答し、親イスラエル的なイメージを弱めようとしている。

地元のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝堂)で行われた最近のスピーチについて、スターバックスでは、自身ユダヤ教徒であるハワード(シュルツCEO)は「私人として話をしただけで、この件に関してメディアのインタビューは受けていません」といっている。スターバックスではまた、次のようなシュルツ氏の談話を引用している「私たちは中東における最近のできごと(原文のまま)には深い悲しみを覚えています。また、シアトルでの私のスピーチが反パレスチナ的と受け止められたことはとても残念です。私は昔から平和を望んでおり、この両国(原文のまま)が平和的に共存できることを望んできました」。

アラブの学生たちは、アメリカ企業が本当に恐れているのはアラブ世界での損害ではなく、このようなアラブ人による抗議行動がヨーロッパ、はてはアメリカのパレスチナ支持派に飛び火する危険性を恐れているのだ、と考えている。

占領地における不法なイスラエル人入植地の建設を非難する様子のないシュルツ氏は、昨年はスターバックスのイスラエル参入の指揮を自ら執り、テルアビブのシャロム・コーヒー社という会社とのジョイントベンチャーで2店舗を開店した。年末までにイスラエル全土で20店舗を開店する予定である。

シュルツ氏はイスラエルを定期的に訪れており、テオドール・ヘルツル・ミッションの賓客としてエルサレムに招かれた経験を持つ著名人の一人でもある。このミッションの祝賀晩餐会では、「アメリカとイスラエルとの親密な連合関係を促進するうえで重要な役割を果たした」栄誉をたたえるフレンズ・オブ・シオンの表彰式が行われる。

これまでテオドール・ヘルツル・ミッションでイスラエルを訪れた人のなかには、サッチャー女爵、ニュート・ギングリッチ米下院議長、そして元ペンシルベニア州知事で、現在「ホームランド・セキュリティー(本土安全保障)」の長を務めるトム・リッジなどがいる。