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行政代執行って、なに?

■行政代執行とはなにか

阿部(1997)によれば、「行政代執行とは,法令または行政処分に基づく行政上の代替的作為義務を義務者が履行しない場合に行政庁が代わりにこれを行なって(または第三者が代わりにこれをなさしめ)その費用を義務者から徴収する制度」である(p. 414)。たとえば,違法建築の取り壊しや,違法開発によって破壊された山林を元通りに回復させることを求め、義務者が履行しない場合に実施される。野宿生活者にかかわるものとしては、1998年12月に大阪市西成区今宮中学校前道路、1998年9月に名古屋市中区若宮大通公園、2005年1月に名古屋市白川公園で、テントや小屋に対して強制撤去が実施された。このほかには、2003年12月には天王寺公園青空カラオケ屋台に対し強制撤去が実施されている。

■代執行と「良心」

代執行は「1)義務者がこれを履行しない場合、2)他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、3)且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」になすことができる、とされる。ここで重要なのは、代執行を、いつ、どのように行うかの判断は,行政庁の裁量に属する自由裁量行為と解されている、という点である。行政代執行はきわめて強権的な手法であるかことら、そこには慎重な判断が求められる。代執行を発動しすぎると、権力行政との批判を浴びかねない。しかし場合によっては発動しないことで、公益を損ないそれによる被害者からの損害賠償の責めに任じなければならない。これらの点を踏まえて、磯野(2005)は、行政代執行は「基本的には、良識(common sense)に基づいて判断するしかない」と指摘している(p. 74)。 とりわけ「代執行を必要とする公益(河川・公園の不法占拠、違反建築、道路の拡幅拒否などによって損なわれる公益)は、直接の被害者がいないために、私権が侵害される場合とは違って、権力を発動するインセンティヴに欠けやすい。代執行をせよという社会的な圧力はめったにかからない」(阿部 1997, p 422)。つまりこのような場合は,「公益に反する」かどうかの判断は,基本的に行政庁の自由裁量に任されるということになる。

■靭公園・大阪城公園の行政代執行について

2006年1月30日に靭公園・大阪城公園で実施された、野宿生活者の起居するテント・小屋に対する行政代執行はどうだっただろうか。行政代執行は、公園整備工事に対しこれらのテント・小屋が障害になっている、ということを理由として実施された。それが「公益」に反するかどうかは、再整備工事にどれほどの緊迫した必要性があったのかによる。しかし強制撤去に際し、再整備工事の必要性が訴えられることはなかった。

また、再整備工事の目的からいっても、行政代執行のタイミングからしても、これが世界バラ会議・全国都市緑化フェアというイベントの開催のために実施されたことは明らかである。これらのイベント開催に、どれだけの「公益性」があるというのだろうか。この点もまた問われることのないまま、行政代執行は実施されたのである。

行政代執行とは、通常の行政行為以上に強力な権力の発動であるため、なおさら発動しにくい行為であった(阿部 1997, p422)。根拠を曖昧にしたままにそれほどの発動されてしまうという事態こそが、実は「公益を損ね」かねない状況であるとも言えるのではないだろうか。

*参考文献はもう少しお待ちください。