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10年前とちがって、自立支援策があるんだから、それを使えばいいんじゃないの?

■なぜホームレスの人たちはいなくならないのか

日本でホームレスの人たちが急増したのは1990年代の後半だと言われています。その頃に比べると、現在では「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(通称、ホームレス自立支援法)があり、ホームレスの人たちへの支援策も格段に整えられていると考えられます。

ところが、ホームレス自立支援法の施行から5年も経とうというのに、都市部ではまだまだホームレスの人たちが日常的に見られます。また、たまにテレビでホームレスの人たちが取り上げられると、「自立支援センターには入りたくない」とコメントする彼らの姿があります。

ホームレスの人たちの姿はなぜ街中から消えないのでしょうか。そして、彼らはなぜ用意された自立支援策を利用しないのでしょうか。この問いに答えるには、自立支援策の中味について見ていく必要があります。

■彼らはなぜ野宿生活をしているのか

ホームレスの人たちのほとんどが失業者です。彼らは職を失い、住居を失い、自分が生活していくための資源を失って、それを取り戻していく営みからも排除された人たちです。そして、そうした人たちがやむなく選択し、強いられるのが野宿生活です。

生活していくための資源を失った人たちが、何とか野宿状態において生きていくための拠点として築くのが、駅や路上、公園の段ボールの囲い(段ボールハウス)やブルーシートのテント小屋です。

あらゆる生活の資源を失って、生きるためにゼロから生活の資源を見つけ、築き上げた砦が野宿生活なのです。

■野宿生活における排除

野宿状態は普通の市民生活から排除された状態だと言えます。ところが、既に排除された状態である野宿状態自体が、さらに排除の圧力にさらされる状態なのです。

苦労して築いた段ボールハウスやテント小屋は「不法占拠」と責められ、立ち退きや強制撤去の対象とされます。また、行き場がないがために落ちつかざるを得ないベンチや路上にも柵が張られます。

さらに、彼らは「ホームレス狩り」のような、場合によっては死に至るような、市民社会の住人からの襲撃の脅威にさらされます。

■自立支援策の実態

そんな苦労が多く、危険が伴う野宿生活なら、早々に自立支援策を利用して脱出することが望ましいと思われます。しかし、現状の自立支援策の多くが、野宿生活の一時的な迂回路に過ぎないと考えられます。

大阪の長居公園西成公園大阪城公園は、ホームレスの人たちがテント村を築いている公園として有名な公園でした(現在でも生活している方はいらっしゃいますが、かつてには及びません)。これらの公園では公園に住むホームレスの人たちの就労支援のための仮設一時避難所が設置されました。

また、公園居住者だけではなく、ホームレスの人たち全体を対象とした自立支援センターもあります。これも彼らの就労自立を支援するための施設です。

彼らが就労し、家を借りるまでの、公園や路上ではない住処となるために設置されたのがこれらの施設です。しかし、就労自立・自立支援をうたいながら、これらの施設は多くの問題を抱えています。

まず、仮設一時避難所は3年、自立支援センターは最長6ヶ月といった利用期限が定められています。この利用期限の間に入所者は仕事を探し、「社会復帰」を目指します。しかし、既にさんざん職を得ようとして適わずに野宿生活を余儀なくされてきた彼らに、そう簡単に仕事が見つかるわけがありません。

これらの自立支援策は、彼らのための雇用創出などは視野になく、もし利用期限内に就労先が見つからなくても、その場合のフォローはなく、野宿生活へ逆戻りということになります。

また、施設の利用環境もあまり良好とは言えません。入所者に割り当てられる個人的なスペースは簡単なパーティションで区切られただけの、ベッドと多少の荷物が積める程度の「個室」、あるいは2段ベッドが設置された6人部屋といったものです。

個人の荷物を保管するスペースに乏しく、プライベートな空間がなく、強いストレス状況下での厳しい就職活動が想像されます。このようなストレスを強いる環境を与えて「就労支援」「自立支援」では、その質が疑われます。

■自立支援という排除?

つまり、これらの自立支援策はあまり実際的な役には立っていないように思われます。現状の自立支援策は、「自立支援」を表向きとした排除の歪んだ現れとも見ることができます。

既に述べたように、ホームレスの人たちは排除されてある野宿生活から、さらに排除されるという状態にあります。自立支援策はこの野宿生活から「抜け出す」ためのものであるはずです。ところが、自立支援策が実際にはそのように機能していないことを見てきました。

自立支援策が機能しているとすれば、それは「街中や公園から、野宿状態にある人間をなくす」という一点にあるでしょう。野宿状態が危機的な問題状況であることは明らかです。こうした状況にある人間がいなくなることは問題の解決に寄与するように思えます。

ところが、野宿状態から脱した人間が、その先でどうあるのかはまともに検討されているとは言えません。世間の関心は、「街中や公園に野宿している人の姿が無くなること」、「見たくないものが見えなくなること」にしかないと言っては言い過ぎでしょうか。そして、「自立支援」は実はそうした世間の思いに応える「排除」の一端に過ぎないのではないでしょうか。

■排除のたらいまわしを超えて

以上の議論を整理すると、ホームレスの人たちは以下の三つの排除にさらされています。

  1. 市民生活からの排除
  2. 立ち退き、強制撤去による野宿状態からの排除
  3. 自立支援を迂回した2.と同様な巧妙な排除

このような排除のたらいまわしを食い止めるには、結果としてほとんど排除のサイクルとしてしか機能していない3.の自立支援の中味を改善していくことが必要でしょう。

そして、テレビの画面にホームレスの人たちを入れ込み、自立支援センターに入りたくないと述べる彼らを、「自立する意志がない」、「好きでホームレスをやっている」と思い込ませようとするマスメディアに注意を払い、一人一人が彼らの生活の実際を知ることで、排除の連鎖を断ち切っていくことが大切です。

このサイトは、そのような知識獲得の一助となることを願って開設されました。ここにあるQ&Aはホームレスの人たちの問題に関する問いのほんの一部であり、その答えも考え方の一つに過ぎません。これらを手がかりにあなたなりの理解を築いていってもらえればと考えています。